湘南鎌倉総合病院(神奈川県)の手島伸一・病理診断部部長は、都内で開催された第61回日本病理学会秋期特別総会の「病理診断シリーズ」のセクションで講演した。これは旬な話題を伝える同大会のハイライトで、毎年2人が選出。手島部長は卵巣がんの疾患概念の変遷などを紹介した。

東京大学安田講堂で感謝状を贈られる手島部長

手島部長は2014年にWHO(世界保健機関)が発刊した第4版『WHO卵巣がん分類』が第3版(03年発刊)から大幅改定したことから、その変更点の解説と同分類に対する私見を披露した。
最大のトピックスは、卵巣がんの発生機序の見直しと、それにともなう疾患分類の変更。従来、卵巣上皮がんは卵巣由来と考えられてきたが、①がん予防目的で卵巣を切除した後も、卵巣上皮がんのひとつ漿液性(しょうえきせい)腺がんの発生が相次いだ、②予防目的で卵巣を摘出した際に切除した卵管采(さい)(卵管の先端)にがんが見つかった、③高異型度(正常細胞との形状の乖離(かいり)が大きい)漿液性腺がんの60~70%で卵管上皮内がんを合併していた――ことなどが次々に判明。
「大多数の漿液性腺がんの原発は卵巣ではなく卵管采で、卵巣腫瘍は卵管がんの転移ではないかとの考えが婦人科病理の分野で広く支持されるようになりました」(手島部長)。女性には1カ月に1度、排卵があり、「その絶え間ない刺激を受け卵管采にがんが発生するのでは」と、予想される機序も解説。

WHO新分類ではこれを反映し、漿液性腺がんを低異型度(正常細胞との形状の乖離が小さい)のⅠ型と高異型度のⅡ型に分類、漿液性腺がんの95%を占める高異型度のほとんどが卵管采原発であることなどを示した。
手島部長はこの変更を「婦人科病理学の21世紀最大のトピックス」と認めつつも、「実臨床では卵管由来でない高異型度漿液性腺がんも一定数見られます」などと私見を披露。日本は卵管采由来のがんの発生頻度が米国より少ない可能性を指摘し、データ収集の必要性を強調した。
こうした変更を受け、卵巣がん肉眼観察のための細胞切り出しは、卵巣だけでなく卵管も采部を含め必ず採取すること、漿液性腺がんと転移性腺がんは似ているため鑑別に注意することなどを呼びかけた。
ほかにも、5㎜以下の微小浸潤を示す漿液性境界悪性腫瘍の20%で見られる非浸潤性インプラント(腹膜表面にできる予後良好な顆粒状の播種病変)は、将来的にがん化する可能性があること、卵黄嚢(のう)腫瘍(ヨークサック腫瘍)の定義が複雑化したことなどWHO分類の変更点に絡めつつ最新知見を紹介した。