徳洲会グループ病理部門は2015年11月22日から2日間、名古屋徳洲会総合病院で第2回学術集会を開催した。病理学的な分類や診断方法の最新知見の講演、精度管理調査の結果発表、画像診断機器の情報提供、一般演題発表などがあり、全国から参集した病理医や病理検査技師ら67人が活発に意見交換した。初日夜には懇親会も開催し、病院間の横の連携も深めていた。

外部への発信の大切さを主張する青笹・最高顧問

徳洲会病理部門はグループの病理診断の質の向上、学会発表の活発化、有能な人材の確保などを目的に年1回、独自に学術集会を開催している。知見の共有だけでなく、学会発表の経験が少ない検査技師の発表の練習の場としても機能しており、今回は教育・特別講演や8題の一般演題の発表があった。
冒頭、名古屋病院の前田徹院長が「質の高い医療に病理診断は必須です」と訴え、同院に常勤病理医を紹介した青笹克之・徳洲会病理部門最高顧問に謝意を述べた。続いて同院に昨年4月に常勤医として就任した服部日出雄・病理診断科医長が登壇、同学術集会に期待を寄せた。

病理部門担当理事の安富祖久明・副理事長は医療の質の向上の必要性を強調

青笹・最高顧問は日々の業務をこなすだけでなく、業務のなかで得られた経験や知識を発信する大切さを説き、「その発信に対する(他者からの)レスポンスを医療業務に生かし、自身の進歩、成長につなげていただければと思います」。

同学術集会には病理部門担当理事の安富祖久明・一般社団法人徳洲会副理事長も駆け付け祝意を表明。安富祖・副理事長はグループの病院新設が一段落したことを告げ「次の目標は医療の質の向上です」と、同部門の活動にエールを送った。

教育・特別講演に関心

「卵巣がんを予防するには卵管を完全に取らねばなりません」と手島部長

今回、多くの参加者の関心を呼んだのが、最新知見を紹介した教育講演と特別講演。湘南鎌倉総合病院(神奈川県)の手島伸一・病理診断科部長が教育講演として「卵巣癌(がん)の多くが卵管原発となぜいえるのか」を、名古屋第二赤十字病院の都築豊徳・病理診断科部長が特別講演として「尿路上皮癌WHO/ISUP分類と尿細胞診統一報告様式」をテーマに講演。
手島部長は卵巣がん診断の歴史を紹介。従来、卵巣がんは卵巣由来と考えられてきたが、予防目的での卵巣切除後も、生じるはずのない漿液(しょうえき)性腺(せん)がんが発症したり、卵巣の高異型度(正常細胞と形状が大きく異なる)漿液性がんの60~70%で卵管上皮内がんも合併していたりしたことなどから、卵巣がんの発生機序が見直されるようになった。
14年版の新しいWHO(世界保健機構)分類では、漿液性がんを高異型度と低異型度に区分、高異型度漿液性がんは卵管原発であることが示された。
手島部長は予想される機序として、女性には1カ月に一度、排卵があり、その絶え間ない刺激によって卵管采(さい)(卵管の先端)にがんが発生するのではないかと解説。
ただ、このWHO分類には批判も上がっていることを明かした。「ほとんどの卵巣がんが卵管采由来であるとは、まだ言えません。日米で卵巣がんの発生頻度が大きく違うともいわれますが、日本人の卵巣がんのデータは乏しく、今後、早急にデータを集める必要があります」。
手島部長はほかにも14年のWHO分類で改定された点を列挙し説明。これらをふまえ、新時代の卵巣がんの肉眼観察法として卵巣だけでなく卵管からの切り出しが必須であり、その詳細な病理学的検討が必要と強調した。

「日本のCISの診断は欧米と若干異なるため、調整が必要」と都築部長

都築部長は、ISUP(国際泌尿器病理学会)が提唱した分類をもとに、WHOが新しく発表した尿路上皮がん(CIS)の異型度分類について紹介した。これまでG1~G3の3段階に分類されていたが、G2に分類される症例が多く、臨床上の意義が薄いうえ、CISは非常に予後が悪く、新たに予後に焦点を当てた分類を用いることとなった。具体的には再発率が高く予後も悪い浸潤がんと非浸潤がんに分け、非浸潤がんはさらに浸潤がんに進行する可能性の高い高異型度と、浸潤がんに進行する可能性の低い低異型度に分類、これを従来の分類と併用することになった。
また、都築部長は経尿道的膀胱(ぼうこう)腫瘍切除術(TUR―BT)の際には浸潤の有無を確認するため、必ず固有筋層が含まれているかどうか明示することを求めた。
さらに、これまで施設ごとに異なっていた尿細胞診の報告様式が日本臨床細胞学会によって統一されたことを報告し、その記述様式や注意点などを説明した。
全体集会では青笹・最高顧問が病理部門の動きを説明。九州・沖縄ブロックの病理診断を担う九州・沖縄病理診断研究センターが正式に稼働したこと、部門内に医師4人、検査技師4人で構成する学術委員会を立ち上げ、福岡徳洲会病院の居石克夫・九州・沖縄病理診断研究センター長が委員長に就任したことなどを紹介した。

技師委員長の江口光徳・宇治徳洲会病院(京都府)臨床検査技師長は、全グループ病院を対象に行ったHE染色(病理組織の一般的な染色法)と標本作成の精度管理調査の結果を報告。評価の高かった病院を例に挙げ、染色や標本作成の手順や工夫点など伝えた。
最後に青笹・最高顧問が、5月末に湘南藤沢徳洲会病院(神奈川県)で開催予定の第3回学術集会への参加を呼びかけ、閉会した。