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徳洲会グループ病理部門は6月8日、神奈川県で第1回学術集会を開催した。知見の更新や施設間連携の深化に加え、全国規模の学会発表へのステップアップが狙い。同学術集会終了後の全体集会では、同部門の円滑な運営と質の向上を目的とした「病理運営委員会」の発足を正式に承認。同委員会は今後、同学術集会の開催や研究活動のアドバイスを行う下部組織「病理学術委員会」を立ち上げる。

乳腺病理の第一人者を招聘

徳洲会には病理に携わる職員が数多くいる一方、全国規模の学会発表が少ないことから、青笹克之・徳洲会病理部門最高顧問は学術集会の冒頭、「互いの連携深化、知識・技術の向上の場として、また全国規模の学会発表へのステップアップの場として、この学術集会を活用してください」と挨拶した。

「この学術集会を全国規模の学会発表へのステップアップに」と青笹顧問

「この学術集会を全国規模の学会発表へのステップアップに」と青笹顧問

この日は全国の徳洲会21病院から病理医や病理検査技師ら約60人が参集し、9つの一般演題を発表。稀少な疾患や診断に苦慮した自験例をスライド画像など用いて紹介し、診断に至った経緯を説明した。質疑応答では「確定診断に至った決め手は何か」、「なぜ免疫染色にこの試薬を使ったのか」など多くの質問や、精度向上のためのアドバイスが寄せられた。

青笹顧問は「発表内容は十分に全国レベルでした」と満足げ。一方で「討論の行い方などは、もっとブラッシュアップできると思います」と課題も挙げていた。病理技師委員会主任の江口光徳・宇治徳洲会病院(京都府)臨床検査技師長は「質疑応答では、よく学会発表で突っ込まれるポイントをあえて質問しました」と若い職員らを鍛錬。学会発表や、研究活動のサポート体制整備にも意欲を示した。

特別講演では乳腺病理医の第一人者である黒住昌史・埼玉県立がんセンター病理診断科長兼部長が講師に立ち、乳がん診断の基本情報から最新のトピックスまで幅広い内容を紹介した。

黒住部長は、検査機器や画像診断技術の進歩により、がんのスクリーニング精度が高まり、病理診断対象例が飛躍的に増加していると報告、「とくに乳がんの分野では病理学的所見がきわめて重視されています」と強調した。

常に最新の情報を入手するよう呼びかけた黒住部長

常に最新の情報を入手するよう呼びかけた黒住部長

術前診断は腫瘍が疑われる部分に細い針を注射し、吸引した細胞を診断する細胞診ではなく、現在は専用の針で組織ごと切り取って診断する針生検が主流。ただ、細胞診は疾患をもつ人を適切に捉える感度がやや低い一方、疾患をもたない人を適切に捉える特異度は高く、世界的には触診、画像診断、細胞診のトリプルテストで問題ない場合、「悪性腫瘍ではない」というコンセンサスが得られているという。

また、現在は6割以上が乳房温存手術であること、リンパ節も切除すると上肢浮腫など深刻な障害が起こる可能性が高く、できるだけ切除しない方針に変わりつつあることを明かした。

「リンパ節転移の際に、最初にがんが到達するセンチネルリンパ節を術中迅速診断し、転移が2個以内なら郭清(かくせい)(切除)しない方針がASCO(米国がん治療学会議)のガイドラインで示されています」(黒住部長)

乳がんのバイオマーカー(指標)としては、ホルモンレセプター(ホルモン受容体)であるエストロゲンレセプター(ER)とプロゲステロンレセプター(PgR)、HER2(細胞の増殖に関連するタンパク質)受容体、Ki67(細胞の増殖能を示す核タンパク質)を挙げ、それぞれの特徴を解説。

黒住部長は、HER2の活動を抑える抗がん剤トラスツズマブの効果が高かったため、患者さんが過小評価されないためにASCO/CAP(米国臨床病理医協会)のHER2判定基準が2013年に見直されたことを紹介した。

黒住部長は、抗がん剤が免疫染色によるサブタイプ分類(各バイオマーカーによって予測される薬剤の効果別分類)まで意識して選択する時代に突入したことを説き、「乳がん治療の考え方や基準は毎年のように更新されます」と、常に最新の情報を入手するよう強く訴えた。

青笹顧問は「とても有意義な講演でした。来年も外部講師を招聘(へい)し、最新の知見に触れたい」と意欲を示した。

その後の全体集会では、「徳洲会グループの診療規模なら海外の雑誌に年20本くらい論文を投稿してもおかしくありません。論文執筆に挑戦する方がいれば指導いたします」と、青笹顧問は有志を募っていた。