徳洲会グループ 病理診断部門の体制強化 大学と連携し育成も視野に

徳洲会グループは、がん医療の充実に向け、病理診断部門の体制強化に乗り出した。青笹克之・大阪大学名誉教授(元・日本病理学会理事長)を徳洲会病理部門最高顧問に迎え、まず診断体制を強化、離島・へき地に遠隔病理診断システムも構築する。病理医は全国的にも数が少ないことから、徳洲会は将来的に病理センターを立ち上げ、全国の大学病院と連携し、病理医を育成する方針。

がん医療の充実に不可欠

青笹顧問は「将来的には徳洲会病理センターをつくり、病理医育成にも力を注ぎたい」と意欲的

徳洲会は昨年から、がん臨床研究を相次いで開始するなど、がん医療に注力している。がん医療の拠点となる「先端医療センター」を神奈川県下に開設する計画もあり、がん医療体制を急ピッチで整備、その一環として病理部門の体制強化を推進している。

青笹顧問が取り組んでいるのは病理診断の質の向上と病理医の増員。

病理診断は顕微鏡拡大画像から細胞のわずかな異常や変化を見つけなくてはならず、その専門性の高さから、脳や消化器、乳腺など部位ごとにスペシャリストが存在する。

もし、病理医が診断に困った場合、徳洲会外の各分野の専門家からコンサルテーション(助言と指導)を受けることができるように、青笹顧問は徳洲会病理部門の外部相談先を手配。

常勤病理医のいる徳洲会12病院(表)はすべて1人病理医体制であるため、相談先のある意義はとくに大きい。

青笹顧問は「将来的には徳洲会病理センターをつくり、病理医育成にも力を注ぎたい」と意欲的

常勤の病理医がいない病院は、大学病院などから派遣された非常勤医が診断を行ったり、外部業者に病理診断を依頼したりしている。

しかし、常勤医がいると、①診断結果が出るのが早い、②主治医との緊密な連携が可能で診断精度の向上が期待できる、③CPC(臨床病理検討会)の開催など研修医の教育が可能――などの理由から、青笹顧問は「病院ごとに診療内容が異なるため、一概にはいえませんが、300床に1人は常勤の病理医がほしい」と目標を示す。

このため専用のホームページを開設し、徳洲会病理部門の魅力を伝える広報活動を展開。また全国の大学病院にもアプローチし、人材獲得を進めている。

青笹顧問は、「病理医にとって徳洲会の最大の魅力は、北海道から沖縄県まで全国に66病院をもっていることです。各病院に集積された多種多様な症例を整理すれば、またとない研究ができます」と強調。

さらに「すぐに常勤の病理医を確保することは難しいかもしれませんが、コンスタントに人材を派遣してもらえる大学とのパイプを太くしていきたいと思います」と意欲的だ。病理に興味のある徳洲会の医師が、大学で勉強できるように相互人材交換も提案していく。

徳洲会の各病院からも、すでに青笹顧問に対し、常勤病理医を要望する声が多数上がっている。離島・へき地病院には遠隔病理診断システムを導入し、術中迅速診断を行う試みもある。

「将来的には病理センターを関東圏と関西圏の2カ所に設置し、大学と連携し共同研究したり、人材を育成したりできるような環境を整備していきたい」と青笹顧問は展望を明かす。

がん患者さん増加も全国で少ない病理医

病理診断は、患者さんの皮膚や臓器などから採取した組織片を顕微鏡で観察し、疾患の種類、悪性度、進行度などを診断することをいう。

主に電子顕微鏡を用い、病変部位を数倍から数十倍にまで拡大、観察するため、診断精度が高い。また、病理医は亡くなった方を解剖し、死因などの調査も行う(病理解剖)。

病理診断の結果は、とくにがん医療では、病変部位が腫瘍なのか、悪性か、化学療法の適応か、放射線の照射範囲はどのくらいか、手術ではどこまで切除するべきかなど、治療方針を決定するための重要な判断材料になる。

さらに、確定診断後も抗がん剤の効果を確かめたり、手術中に、切除範囲の外にがん細胞が残っていないかどうかを確認するため、10分程度の時間で、がん細胞の有無を確認(術中迅速診断)したりする。

「切除範囲が少し違うだけで、患者さんの予後は大きく変わってきます」と、青笹顧問は病変部位を正確に把握することの重要性を指摘。切除範囲を最小限に留め、しかも、がんが再発しないようにがん細胞を残さず取り除くためには、術中迅速診断が不可欠だ。

がん患者数の増大とともに重きをなしてきている病理診断。しかし、病理医の数は全国的に少なく、多くの病院が配置していないのが現状だ。